恋宿~イケメン支配人に恋して~
「なにかあったか?」
「いえ……その、皿を、割りまして」
「皿?ったく……ケガしてないだろうな」
呆れながらも心配してくれているようで、その手はそっと私の手をとると傷がないかを確認する。
触れる指先は、低い体温。指先を確かめるその長い指を小さく握った。
「理子?」
「……私のこと、好きですか」
「え?」
ぼそ、と小さな声で問いかける。それは今、一番聞きたい言葉を求めて。
「なんだよ、いきなり。変なこと聞くなよ」
だけど言ってくれない。聞くことは、出来ない。なんで。ねぇ、どうして?
「……私より、明日香さんのほうがいいと思います」
「は……?」
「明るいし、気も効くし……何年経っても千冬さんを想ってる。私なんかと比べて、千冬さんのことも沢山知ってる」
こみ上げる気持ちから出たのは、それ以上問いかける言葉より、諦めに近い言葉。
私より、私なんかより。
「……なんだそれ。くだらないことを比べるなよ。お前疲れてるんだよ。もうあがりだろ、早く休め」
「くだらなくなんてない!!」
呆れたように流そうとする彼に、つい声を張り上げた。
「私、千冬さんのこと知らないことばっかり……大丈夫って思いたいのに、考えるほど遠い」
大丈夫?大丈夫じゃない。
信じてる?だけど遠い。
「私じゃなくたっていいじゃないですか!代わりなんているじゃないですかっ……」
溢れる気持ちをぶつけるように声をあげた。
その瞬間、ガンッ!と私の左横の壁を殴る拳。力強い衝撃に、その場には一瞬の静寂が流れる。
「……本気で言ってるのか?」
その中で小さく呟かれる低い声に、目の前の千冬さんは睨むようにこちらを見る。それは鋭く、本気の怒りが感じられる目。
初めて見るその感情に、驚きと怯えで息が止まりそうになる。