恋宿~イケメン支配人に恋して~
「お前は、自分より明日香のほうがいいとか、代わりはいるとか……俺の気持ちがそんな簡単に変わるとでも思ってるのかよ」
「……、」
「理子」
怒って、る。
千冬さんの気持ちを疑っていること、信じられない私の弱さ。
これまでいくら厳しい言い方をしても、本気で怒ることなんてなかった。そんな千冬さんが、ここまで言うほどに。
不安や怯え、自分の情けなさ。いろいろな気持ちがごちゃごちゃに入り混じり、瞳からはボロボロッと涙がこぼれだした。
「理子……?」
突然泣き出すとは思っていなかったのだろう、千冬さんが驚きを見せると、背後のドアがガチャリと開けられる。
「ちょっと、なんかすごい音しましたけどなにが……」
そこから姿を現した八木さんや箕輪さん、仲居の皆は音を聞きつけやってきたのだろう。
けれど、怒る千冬さんと泣く私という光景に全員何事かと固まってしまう。
「えっ……え!?何事!?」
「っ……先あがります、失礼します」
「あっ、おい理子!!」
そんな空気から逃げ出すように、私は皆の間を抜けその場を駆け出した。
信じたい、だけど、なのに。頭の中がぐちゃぐちゃで、苦しい。
どうしたいのか、どうしたらいいのか分からないよ。
ただ今は、逃げ出すことしか出来ない。