恋宿~イケメン支配人に恋して~
20.溢れ出す
『……私より、明日香さんのほうがいいと思います』
突然の、彼女の言葉。
それはどこか諦めたような、自分をそう納得させているかのような、そんな一言。
なんで、そんな悲しい声で叫ぶんだよ。なんで、いきなり泣くんだよ。
なんで、なんで。
「なんで理子ちゃん泣かせたんですか!!」
「……」
目の前では、怖い顔で問いただす八木と、皆して睨む仲居たち。そんな女性陣に囲まれ、狭い倉庫の中俺は黙ったまま責められる。
どうしてこうなったのか、どうして理子が泣いたのか。俺が聞きたいくらいだ。
そもそもは、理子がどこか元気がなかったから気にかけたところから、『俺が理子を好きか』『明日香のほうがいいんじゃないか』とか、なぜかそんな話に発展し……。
つい怒ってしまった俺に、理子が泣き出したところを八木たちに見られたというわけだが。
……幸い、厨房の方へ行っている明日香にはこの騒ぎは聞かれず済んだようだ。
「……なんで泣かせたって言われても」
「言われても、じゃないですよ!今までどんなに怒られても泣かなかった理子ちゃんが泣いてたんですよ!?なにかしたとしか思えない!!」
「そうよそうよ!今日理子ちゃん元気なかったし……彼氏として傷つけるようなことしたんじゃないの!?」
おー、怖い。
自分がされたわけでもないのにこうも怒るとは……女の団結力は恐ろしいと感じながらも、理子がここまで皆に可愛がられていることを喜ぶべきか。
「そもそも!千冬さんがどっちつかずな態度をしてるから悪いんです!」
「はぁ?俺がいつどっちつかずな態度なんて……」
「今・現・在・です!じゃなかったら押しかけてきた元カノを働かせたりしません!優しいのは結構ですけど、今の恋人を守るために厳しくする必要もあったと思いますけど!?」
「うっ……」
若くして仲居たちをまとめる力があるだけあって、ぴしゃりとした八木の言い方に反論も出来ない。
まぁ、確かに……言われてみれば、そうだけど……。
そこまでの言い方をすることあるだろうか。というか、こいつらは本当に俺が支配人だと分かっているのだろうか。