恋宿~イケメン支配人に恋して~
「うかうかしてると、他の男にとられちゃうわよー?私、この前見たんだから」
「え?見たってなにを……」
「理子ちゃんが、あの花屋のイケメンとイチャイチャしてるところ!」
仲居のひとりはコソコソと小声……といってもその場にいる全員に聞こえる大きさで言う。
花屋のイケメン……って、宗馬?
なんでそこに宗馬が出る?普段の決して仲良しという様子ではないふたりを思い浮かべ、俺は眉間にしわを寄せ首をかしげた。
「仲良さげに話して、理子ちゃんの頬に手添えたりして……理子ちゃんもまんざらでもなさそうでねぇ!」
「そういえばこの前はお姫様抱っこしてたし……間違いない、あの子絶対理子ちゃんに気があるわよ」
それは俺だって少しは気にした。仲が悪いようで近い二人の距離。
けれど仲良さげに話すだとか手を添えるだとか……その見方には絶対好奇心やイメージなどが紛れていると思う。つまり、信用性はない。
「……まさか。ない。ありえない」
「そういう態度がまた、理子ちゃんの心を離しちゃうんじゃないんですか」
「なっ!?」
至って冷静に、平然と否定をするものの、それすら八木には叱られる。
こいつ本当に年下か?年上どころか、母親並みに強いぞ。
「とにかく、もっとしっかりしてください!元カノが可哀想だとかそういう気持ちは捨てる!あっちもこっちも大切にしようとすれば、本当に大切なものから失くしちゃうんですから」
「……わかってるよ」
くそ、正論すぎて反論出来ない。これだから地元の女は苦手だ。
そんな思いから苦い顔で髪をかく俺に、八木はバシッ!と背中を押すように強く叩いた。