恋宿~イケメン支配人に恋して~
「明日香にもいいところがあること、分かってる。だけどな、彼女にもいいところが沢山ある」
頑張っているのも、努力してきたのも、悩み苦しんだことも。それぞれに中身や大きさは違えど、同じ。
だから比べたって仕方ない。比べてどちらが良いかを決めるより、心が求めるほうに従うだけ。
「好きなんだ、彼女のことが」
迷いなく、隠すこともなく言い切った言葉に、それまで感情的だった明日香はふと落ち着きを取り戻すと目元の涙を手で拭う。
「……そっか。覚悟はしてたけど、やっぱりへこむなぁ」
「……悪い」
「けどちぃちゃん、昔よりしっかりしてかっこよくなったね。……悔しいけど、そういうところも好きだなぁ」
まだかすかに震える声。睫毛を涙で濡らし「へへ」と笑う。
きっと強がって、頑張って笑ってみせているのだろう。その笑顔に応えるように、俺も小さく笑う。
「ねぇねぇ、もしかしてちぃちゃんの彼女って理子ちゃん?」
「え!?な、なんでわかった!?」
「あ、やっぱりそうなんだ。さっきのちぃちゃんの話聞いてたら理子ちゃんかなーって」
『愛想も悪いし愛嬌もない。ふてぶてしくて世間知らずで、仕事に関してだって半人前』それらの特徴で、すぐに読み取れたのだろう。
けれど笑っていたその顔もふとなにかを思い出したように『まずい』といった顔になる。
「……私、余計な話しちゃったかも」
「え?」
「理子ちゃんにちぃちゃんとのこととかベラベラ喋っちゃった!大丈夫かな!?」
「なっ!?」
俺とのことを話したって……あー、そうか。だから理子の奴、あの態度。なにを言ってくれたんだ、と思いながら、だからかと理子の態度に納得出来た。
誰かと比べて、どうするんだか。あのバカ。
「……大丈夫、とは言い切れないけど。まぁ、そこは俺から理子に話すよ」
「ごめんね」と申し訳なさそうに手を合わせる明日香に苦笑いをこぼした。