恋宿~イケメン支配人に恋して~
「じゃあ、私荷物まとめて帰るね」
「いや、もうこの時間だし今日は泊まれ」
手元の腕時計を見れば、時刻は夜23時。当然もう電車もないし、そもそも街に出るバスもない。
そんな状況から引き止める俺に、明日香は小さく首を横に振る。
「ううん。タクシー使って街まで出て、始発までファミレスで時間潰すよ。……ちょっとでも長くいると、またちぃちゃんに縋りたくなるから」
「……そうか」
それ以上引き止めることをしない俺は、冷たいだろうか。元とはいえ、一度は想った相手をこんな風に突き放すなんて。
胸に小さく刺す罪悪感。
「ちぃちゃん、幸せになってね。私も、負けないから」
だけど、例え作り笑いだとしても、彼女がそう言って笑うから。
「……あぁ」
自分の選択は間違いじゃないと信じ頷いて、同じようにそっと笑った。
気付けば、4年ぶりの恋。
誰かを愛しいと久しぶりに想うと同時に、年齢だとか性格だとかいろんなことが邪魔をして、肝心な言葉は素直に言えずにいる。
『私のこと、好きですか』
その心が求めていた、たった一言さえも伝えること出来ずに。
今度は、理子に伝える番だ。
俺が抱く、彼女への気持ちを言葉に表して。