恋宿~イケメン支配人に恋して~
「ま、確かにあいつの方がキミと比べれば明るいし愛嬌もあるし?あ、あと胸もあるし肉付きもいいね。あれ、そう思うとキミ何もないんだねぇ、可哀想に」
「うるさいですよ!!」
って、折角少し見直したのに最終的に可哀想って言われた!!
悔しい、けどやっぱり反論出来ない……!
ぐっと言葉を堪えると、宗馬さんはふっと笑う。
「けど、元はそんな相手と付き合っていた奴が好きになるほど、キミにはキミのいいところがあるんでしょ」
私には、私のいいところ……?
「……ありますかね」
「うん。少なくとも、俺はそう思うけど」
「え?」
「不器用だけど一心なところ、可愛いよ」
『可愛い』……なんて、そんな。
宗馬さんから聞くとは思わなかったその言葉に、つい赤くなる顔を背けながら必死に笑って誤魔化す。
「は……はは、またご冗談を」
「冗談なんかじゃないけど」
けれど宗馬さんの声は至って冷静なまま。私の手にそっと触れたかと思えば、その腕は体をぎゅっと抱き締めた。
「千冬なんかに、渡したくないくらい」
ふわ、と香るのは千冬さんとは違う、甘い花の匂い。ごつごつと骨ばった肩や腕が、彼の細さを伝える。
「え……?宗馬、さん……?」
「もうさ、あれこれ悩むなら俺にしちゃえばいいじゃん。俺なら千冬みたいに元カノのことで悩ませたりしないし、不安にもさせない。沢山一緒にいられる」
「でも、」
「千冬の代わりでも、いいから」
耳もとで響く低い声は、願うように。
宗馬さんとなら悩まない?不安もなく、沢山一緒にいられる?
千冬さんの、代わりでも。
『私じゃなくたっていいじゃないですか!代わりなんているじゃないですかっ……』
……あぁ、そっか。千冬さんが怒った意味が分かった気がする。
代わりなんていない。比べたって意味がない。
不安になっても、気持ちを直接言葉にしてくれなくても、それでも好きなんだ。彼のこと、だけが。
私が求めるのは、あの腕のぬくもり。
「……何してるんだよ」
その時、突然響いたのは彼の低い声。
驚き宗馬さんと裏口のほうを見れば、そこには千冬さんが驚いた様子で私たちを見ていた。
事情は分からずとも、親友と恋人が抱き合っているという状況に、その目は段々と驚きから怒りへと変わる。