恋宿~イケメン支配人に恋して~
「千冬さん……なんで、」
「それはこっちの台詞だ。どういうことか説明しろ」
厳しい言い方で責める千冬さんに、宗馬さんは抱きしめる腕の力を緩めはするものの、完全にはほどかない。
私に触れたままのその腕に、彼の目つきはまた鋭くなる。
「宗馬、その腕離せ。触るな」
「なんで?元カノにつけ込まれて今の彼女不安にさせるくらいなら俺に頂戴。大事にするよ?」
堂々と言い切る宗馬さんに、千冬さんは腕から私を無理矢理引き離すと、宗馬さんの襟をガッと掴む。
「ふざけたこと言ってるんじゃねーよ。くれと言われて彼女やる奴がどこにいる」
「へぇ、そんなに彼女のこと好きなんだ?」
「当然だろうが!好きに決まってる。だから理子は俺のだ。誰にもやらない、例えお前でもだ」
好きに決まってる、誰にもやらない。
そう言い切って、くれた。
大きく響いた彼の声に、驚きから呆気にとられてしまう。そんな中、宗馬さんは黙り俯く。
「……ここまで聞いても、まだ不安?」
「え?」
それって、どういう意味……?
意味がわからずキョトンと首を傾げれば、顔を上げた宗馬さんの表情はニヤリと悪魔のような笑みを浮かべていて……。
その顔とその言葉から察するのは、今のやりとりは宗馬さんが千冬さんの本音を聞き出す為にした演技だったということ。
「なっ……!!」
同じくそれに気付いたらしい千冬さんは、みるみるうちに顔を赤くさせ、宗馬さんの襟をより強く掴む。
「お前……この野郎……!!」
「まぁまぁ、怒らない怒らない。千冬も正直になれたわけだし、彼女も安心出来たわけだし。良かったじゃない」
「それはそうかもしれないけどな……!もっとやり方ってものがあるだろうが!!」
恥ずかしさからより強い怒りをぶつける千冬さんに、そんな姿も予想の範囲内なのだろう。宗馬さんはけらけらと笑い襟から手を解かせると、Tシャツの首元に寄ったシワを伸ばす。
「あとは当人同士で仲良くどーぞ。あ、仲直りのあと盛り上がるならアパート使うよね?じゃ、俺今日はおとなしく実家帰ろうかな〜」
「えっ!?」
「宗馬!!余計なこと言うな!!」
そして手をひらひらと振ると、颯爽と駐車場の隅に停めてあった自分の車へと乗り込みその場を去って行った。