恋宿~イケメン支配人に恋して~



「確かに明日香とは、一緒にいた5年っていう時間がある。けどお前とは、これから何年何十年って時間が待ってる」

「何年、何十年……」

「そう。それだけあれば、嫌っていうほど知っていくよ。そのうち、小さな不安も自然とこぼせるような、そんなふたりになる」



今はまだ、すぐつまずいてしまうようなでこぼこ道。だけどふたりで手をとって一歩一歩あるいていけば、乗り越えていけるから。



「教えてくれますか、千冬さんのこと、たくさん」

「あぁ。教えてやるし、聞きたい言葉も言ってやる」

「え?」



聞きたい、言葉?

千冬さんは頬から手を離すと、長い腕でぎゅっと体を抱きしめる。

香る匂いは、シャンプーと微かに煙草の匂い。この匂いが、体温が、一番愛しい。



「バカだけど、バカな子ほど可愛い。不器用だけど、そこが愛しい」



耳元で囁かれるのは、飾ることのないまっすぐな愛情。



「好きだよ、理子。大好きだ」

「……はい、」



嬉しさに込み上げかけた涙をぐっと堪え頷くと、そんな私の顔がおかしかったのか彼は小さく笑う。

顔を近づけ、触れるだけのキス。一度唇を離すと見つめ合い、今度は深く口付ける。

愛を確かめ、誓うように。永い永いキスを交わした。



ふたりの日々は、まだまだ始まったばかり。何も知らないここから、沢山知って、触れて、時間を重ねていくんだね。



なにもなかった、私の中身。

だけど、彼と出会って知ることが出来た。なにもないなんて、なかったこと。



あなたが見つけてくれた、私がいる。

自分だけに出来ることがある。顔をあげれば、無数の希望と未来が広がっている。



彼と手をつなぎ見上げた空は、明日のきれいな青色を約束するように、沢山の星が広がっていた。










end.
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