恋宿~イケメン支配人に恋して~
新藤屋から自宅であるアパートまでの道のりを、愛車のピンク色の軽自動車で走ること、15分。
2階建ての小さなアパートの1階角部屋。プレートに『105・麻生』と書かれた部屋のドアを開けると、玄関には脱いだままの青いスニーカーがだらしなく置かれている。
「ただいまー」
「……ん」
『ただいま』に対して『ん』って。『ん』ってなによ。
短い返事に呆れながら家にあがれば、少し広めの2LDKのリビングでカチカチとゲームをしている猫背の姿がある。
目にかかった伸びた前髪に、ヒョロッとした頼りない体型。身長は私より少し高いけれど、正直あまり変わらない。
無口で口下手、無愛想。この男が私の彼氏、麻生絢斗。
「また休みだからって1日中ゲームしてたの?」
「ん」
「もう、本当にゲームオタクなんだから。あ、頼んだ洗濯物干してくれた?」
その会話と同じタイミングでリビング手前の脱衣所を覗けば、朝洗濯機にかけた洗濯物が干されることなく今だに入ったまま置かれている。
あー、ですよね。やってくれているわけがないですよねー……。
って、ゲームする暇はあるのに洗濯物は干せないって、どういうこと!?
「っ……ちょっと絢斗!なんで干してないの!?朝頼んだじゃん!」
「……今いいとこ」
「それ朝も言ってたしそもそもそのゲーム昨日の夜からずっとやってるしやりすぎだから!!」
怒る私をチラリとも見ることなく、カチカチとゲームを続ける。そんな絢斗に余計腹が立ちながらも、部屋を見れば脱ぎ捨てられた靴下や散らばった雑誌、ごみなどあれもこれも目についてしまう。
「ああもう、靴下はまとめて洗濯機にって言ったでしょ?雑誌も読んだら本棚に、ごみは分別してゴミ箱に!本当何度言っても分からないんだから!」
「……口うるさい奴」
「絢斗がちゃんとしてくれれば言わないってば!」
怒りながら靴下をまとめ、雑誌を片付けゴミを捨てる。って、こうやってやってあげちゃうからよくないって分かっているのに、またやってしまった。