恋宿~イケメン支配人に恋して~
「でもそれって、信頼してるってことなんじゃないですか」
「……そうかなぁ」
翌日、朝の仕事である朝食準備をしながら愚痴をこぼす私に、理子ちゃんは食事を並べながら言った。
噂をされたり冷やかされるのが嫌で、ここでは千冬さん以外には内緒にしているけれど……妹のようだし、口は堅そうだしと理子ちゃんには話したことから、度々こうして話を聞いて貰っている。
「だって仕事は割と真面目にしてるじゃないですか。外でちゃんとやれる人が家ではダラけるって、そういうことだと思いますけど」
「それはそうだけど……でも本当に何もしてくれないんだよ!?脱ぎっぱなし置きっ放しだし、千冬さんそんなことする!?」
「あー……あの人は『全部自分でやるから手出ししなくていい派』ですから」
確かに……千冬さんは靴下だって脱いだらすぐに洗濯機に入れそう。絢斗とは間逆だもんなぁ。
「……でもさ、絢斗にとって私はお母さんでしかないのかなとか、思って」
「お母さん、ですか」
「だから何年付き合っても結婚って話が出てこないのかな」
こぼれるのは、小さな溜息。
焦りたくないけど、焦ってしまう気持ちもある。
だって、私もう30歳になるんだよ。8年も付き合っているんだよ。なのにまだ、指輪のひとつも貰えないの?誓う言葉のひとつもないの?
……私は絢斗のなんなんだろうって、また不安になる。
けどその答えを聞くのが怖くて、何年一緒にいても絢斗には聞けない。
「……彼氏さんって、正社員でしたっけ」
「へ?ううん、まだ見習いとしての扱いだから契約社員かな」
理子ちゃんからの突然の問いかけに、きょとんとしながら答える私に、理子ちゃんは「あー」と納得するように頷いた。
「じゃあ私が彼でもしないですね」
「えっ!?なんで!?」
「せめて一つくらいは、かっこいいところ見せたいですから」
「へ?」
それってどういう意味……?
そう問いかけようとしたものの、理子ちゃんは箕輪さんに呼ばれ廊下へと駆け出していく。
一つくらいはかっこいいところ……って、どういう意味なんだろ。
その意味深な言葉にうーんと頭を悩ませるけれど、答えは結局出てこない。