恋宿~イケメン支配人に恋して~
隣の家に住む絢斗とは、小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた。
ぼんやりとしていて、上手く周りに馴染めない絢斗。その小さな手をいつも引くのが、私の役目。
学校の登下校だって毎日一緒だったし、帰ったらどちらかの家でふたりで過ごすのもお決まりだった。
絢斗を大切だと思う気持ちは、幼馴染としてだと思ってた。
けど、それが違うものだと気付いたのは私が高校1年、絢斗が中学2年生の時。
『絢斗……それ、誰?』
『……彼女』
帰り道。偶然行き会った絢斗はそう言って、見知らぬ女の子を連れていた。
『彼女』、そう聞いた時の気持ちは今でもなんと言い表していいのか分からない。
全てが真っ白になってしまうような、心にぽっかりと穴が空いたような、唖然、愕然とした気持ち。
……まぁ、その彼女は絢斗のあまりのマイペースさについていけず、すぐ別れたわけだけれど。
そこでようやく自分の気持ちを知った私は、絢斗への片想いを自覚する。けれど、まぁよくある幼馴染ならではの『関係を壊したくない』とか、そういう悩みで告白は出来ず、そのうち私は就職するし絢斗も高校生になるしで一緒にいる時間も減ってしまった。
気付けば私も彼氏の1人もできないまま20歳を過ぎていて、娘の将来を心配した母から『知人の息子』『友人の息子』『この街のどこどこの会社の後継息子』……と次から次へと相手を紹介され始めた。
その話を聞いても、絢斗は気にも留めずにゲームをしたまま。
『……あーもう、お母さんがうるさい……』
『作ればいいじゃん。彼氏』
『作れるならもうとっくに作ってるから』
他人事のような言い方をする絢斗に、ついにこぼれだした何年も溜め込んできた気持ち。
『……なんで何年も、私に彼氏がいないか知ってる?』
『できないからでしょ』
『そうじゃなくて……いい加減に、気付いてよ』
その言葉とともに、自分から触れた唇。
嫌われても、いい。ダメならもう諦めよう。だから最初で最後に一度だけ。そんな諦め混じりのキス。
だけど絢斗は、ふっと笑って言った。
『……気付いてたから、言わなかったのに』
絢斗が俗に言うドSだということを知ったのは、この瞬間。けれどそれと同時に、ふたりが恋人同士になったのもこの瞬間だった。
告白をしたのも、キスをしたのも、その後一緒に住みたいと言い出したのも私。
いつもいつも、その手を引くのは私の役目。だけどたまには、手を引いて欲しい時だってある。
言ってほしい言葉だって、あるよ。