恋宿~イケメン支配人に恋して~
「俺、まだバイトみたいなものでしょ。だからせめて見習い終わって社員になって、安定しないことには結菜の人生背負う資格ないから」
「私の、人生……」
「そりゃあね。結婚って、そういうことでしょ」
もしかして、理子ちゃんの言っていた『せめて一つくらいは、かっこいいところ見せたい』って言うのは……こういうこと?
経済的にも、男としても、自立して、私のために?
「私……絢斗は私だから結婚する気になれないんだと思ってた」
「……なんで?」
「私、いつも口うるさいし、可愛げないし、理子ちゃんみたいな不器用でほっとけない子だったらいいのかなとか、思って……」
戸惑いながらも気持ちをきちんと伝えようと、途切れ途切れに言葉をこぼす私に、見つめる絢斗の瞳は空と同じオレンジ色に染まる。
「……確かに結菜は、ほっといてくれなくて器用で、何でも出来ちゃうから可愛げはないよね」
「うっ!」
「けど、結菜のそういうところに俺は安心するし、一緒にいたいと思えるんだよ」
私がダメだと思うところも、絢斗は受け入れてくれるの?
誰かと比べてへこむ心も、こうして、優しく抱きしめて。
「だから、もう少し待ってて。誓う気持ちも覚悟も、ちゃんとあるから」
「……うん、」
「……約束」
真っ赤に染まる夕焼けに包まれて、優しく交わすキス。それはまるで、言葉はなくとも誓いを示すように、ふたりに深く溶けていく。
もう少し待っていて、なんて。もう8年も待っているんだから、あと何年、何ヶ月かなんて楽勝に決まっている。
不器用だけどその言葉と約束さえあれば、いつかのその日を楽しみに。
今日もだらしないあなたを、しっかり支えてあげる。
end.