恋宿~イケメン支配人に恋して~
「じゃあ理子ちゃん、私たちも行こうか」
「こんな時間から何の仕事が?」
「まずは朝食準備。うちは7時から9時までが朝食時間で……ほら、理子ちゃんも昨日チェックインしたときに朝食の希望時間聞かれなかった?」
言われてみれば、昨日のチェックインの際にフロントの人に『7時から9時までの間の時間で朝食時間の指定が出来る』と言われた気がする。
確かそれで、9時に頼んだんだっけ。……結局食べられないわけだけど。
それをもとに、それぞれに朝食の支度をするというわけだろう。
でもご飯よそって並べるくらいならそんなに時間いらないんじゃ……?
「でも7時まであと1時間もありますけど……」
「うん、あと1時間しかないからね。ちゃちゃっと頑張ろうね」
「へ?」
1時間、しか?それってどういう意味?
きょとん、と首を傾げる私に、八木さんは「こっちだよ」と連れて歩く。
そして、従業員用エレベーターに乗りやってきたのは地下。奥へ歩いていけば、そこには広々とした厨房がある。
「このケースにおかずを個数分詰めて、二階の広間まで運ぶの。今日はお客様が51人だから51個ね」
「51個!?自分たちで運ぶんですか!?」
「うん、うち人手少ないから。でも今日は暇だから少なくてよかったねぇ」
これで少ないの!?
おかずはメインの煮魚に副菜の和え物、お新香と湯豆腐……それを各51個って。
「とりあえず私たちはお魚と和え物だけ。あとは他の人たちが取りにくるから」
「……で、それを運んだら」
「もちろん並べるよ。ひとつひとつ丁寧にね」
で、ですよね……。
並べればいいとだけ思っていた朝食準備。けれどそういうわけではなかったらしく、調理場の人が作ったものを人数分詰め込み、重いケースを台車で運び、広間まで運んだらそれを並べて……と、それは予想以上に面倒なもの。
アナログっていうか、人手余裕なさすぎっていうか……。
気怠く溜息をつきながら、広間に持ってきたおかずを並べられた座布団の位置に合わせて、テーブルの上に適当に置いていく。