恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……っと、着いたぞ。大樹、荷物一緒に運んでくれ」
「はいはい」
話すうちに着いた旅館。建物前の広い駐車場に停められた車から降り、トランクから自分たちの荷物を降ろしていると、なにかが駆け寄ってくるのが見えた。
「いらっちゃいまちぇー!」
「こらー!はるくん!まってー!」
それは、たどたどしく走るまだ幼い男の子と、幼稚園くらいであろうその子の姉らしい女の子。
走る二人の子供の後ろからは、慌てて走ってくる姿が一つ。
「こら、春馬!莉乃!駐車場を走らないの!」
鮮やかな水色の着物を着て、長い髪を綺麗にとめた彼女は、俺たちに気付くとハッと慌てて身なりを整え、頭を下げた。
「あ……すみません、お見苦しいところを」
その言葉とともに上げた顔は、柔らかな笑顔。
それは、あの日を思い出す表情。
「いらっしゃいませ。ようこそ、新藤屋へ」
end.