恋宿~イケメン支配人に恋して~
「あっ、ダメダメ!おかずも置く位置決まってるから」
「え?」
「メインのお魚が真ん中、右に和え物、左に湯豆腐。その手前にお新香。広すぎず狭すぎずの間隔に置いてね」
お、置く位置まで?いちいち細かい……。
「……位置って覚えなきゃダメですか」
「ダメだねぇ」
にこにこと笑いながらおかずの位置を直していく八木さんに、私も渋々お皿を動かす。
なんか……予想以上に面倒臭いかも。ダラダラと動きながら、また溜息がひとつこぼれてしまう。
「あとはお客様が来たらごはんとお味噌汁、お茶をいれる。以上」
「ごはんとかも一気に並べちゃえばラクなのに……」
「今よそったら9時に来る人は冷めたごはんを食べることになっちゃうからねぇ」
とりあえず一通りの支度を終え、広間の外である廊下に立つ。
見渡せば、隣にもそのまた隣にも同じような広間があり、忙しい時期にはこれらがずらりと埋まるのだろうかと想像しげんなりとしてしまう。
そのうちに時計の針は7時を指し、廊下の奥からは数名の人々がずらずらとこちらへ歩いてきた。
「おはようございます、朝食会場はこちらとなっております」
「お部屋番号と朝食引換券のほうをお願いいたします」
チェックインの際にもらう朝食引換券を仲居さんに渡して、広間に入る。そして案内された席にお客様がついたら、ごはんなどをよそり運ぶ……という流れを、皆は自然とこなしていく。
「理子ちゃん、これ向こうの席の人に運んで」
「はい」
八木さんに言われ、おぼんにごはんとお味噌汁を乗せ歩いていくと、老夫婦の席で膝をつき無言でテーブルにそれらを並べた。