恋宿~イケメン支配人に恋して~
「じゃあ、チェックアウトの時間だからお見送りに行こうか」
「お見送り?」
「帰られるお客様を、出入り口で皆で見送るの。来る時だけ歓迎して帰る時はそのままなんて嫌な感じじゃない?」
説明しながら早足でフロントのほうへと向かう八木さんに、私も早足でついていくとそこには既に数名の仲居さんたちや芦屋さんの姿。
「この度は当館をご利用いただきありがとうございました。ぜひまた、いらしてくださいね」
「えぇ、お料理も美味しいしお風呂も気持ちいいし……なにより人がいいものね。ぜひまた来るわ」
「お待ちしております」
お客さんとにこやかに話す芦屋さんは、昨日見たものと同じ素敵な笑顔。
あのお客さんも、まさかこの人が鬼のような顔で口うるさく怒る人だなんて想像もしないだろうなぁ……。
知らないほうがいいことなんだろうな。私も知りたくなかった。素敵な若い支配人、のままのイメージで帰りたかった……。
心の中で嘆くうちに、皆は「ありがとうございました」と声を揃えて深いお辞儀をした。
あっ、まずい出遅れた。慌てて頭を下げて、上げる。けれど周りはまだ頭を下げていて、いつまで下げているんだろうと見渡すうちにお客さんは去り、皆ようやく頭を上げた。
「……吉村」
「へ?ぎゃっ!」
すると芦屋さんは、私の頭をがしっと掴み頭を下げさせる。