恋宿~イケメン支配人に恋して~
「隣、勝手に座らないでください」
「嫌ならお前がどこか行け」
「そっちが行け」
「お前……本当に可愛げないな」
また言われた。ほっといてほしい。
顔を背けるようにして、見上げた空は穏やかな晴れ空。オフィスの窓から見上げていたものと同じ色をしたその空は、今日も憂鬱だ。
「お前、東京住みだって言ってたよな。地元は?」
「……生まれも育ちも東京です」
「ほー、都会っ子だな」
なにげない質問に答えながら、視線を隣へと向けると、芦屋さんは黒い髪を風に揺らし煙草の煙を吐き出す。
「芦屋、さんは」
「俺は生まれも育ちもここ。この旅館も実家だからな」
「へー……」
ってことは、跡継ぎ息子?
こんな若いうちに継ぐなんてすごい……いや、実は見た目以上に年上?
いくつなのだろうかと横顔をまじまじと見る私の視線に気付いているのかいないのか、手にした携帯灰皿にトン、と灰を落とす。
「普段、なにやってんの?仕事」
「OLです。普通の」
「ふーん……」
ふたりの間に漂うのは、煙草の匂いとどこか静かな空気。