恋宿~イケメン支配人に恋して~
「お前さ、会社で仕事出来ないだろ」
「は!?何で知って……」
「あ、やっぱりそうか」
はっ!言い当てられたことに驚いて墓穴を掘る言い方をしてしまった。
そんな自分の口を慌てて塞ぐものの既に遅く、芦屋さんは納得するように頷く。
「やる気もないしふてぶてしい。『ちゃんと出来ない』っていうより『そもそもやらない』が正しいか。本気でやれば出来るかもしれないのになぁ」
「……そりゃあ、接客なんて上手く出来るわけないし」
「んじゃ、普段のOLの仕事は本気でやってるけど出来ないのか?」
「うっ……」
本気で、と言われると……そうではない、けど。
返事を詰まらせる私の心の中などお見通しのように、ふっと笑う。
「……だって、楽しくないから」
「っていうのは?」
「毎日同じようにパソコンに向かって、カチカチ打って、それが合う人は合うんだろうけど……私には、多分合ってない」
元々、頭を使ったりすることもあんまり得意じゃないし、ひとつのことを黙々とっていうのも苦手。
じゃあなにが得意かと聞かれるとそれはそれで答えに困るけれど、今の仕事が合っていないんだろうってことは3年もの間毎日働いてよく分かった。
「それに、私の代わりはいくらでもいるから」
「代わり、ねぇ」
「私がいなくても仕事は回るし、あの会社じゃなくても私は働ける。お互い“代わり”があるから、多分求められないし自分も求めない」
『あなたの代わりなんていくらでもいる』
思い出すのは、あの言葉。
私の代わりなんていくらでもいる。私にしか出来ないことなんてない。
そう思うと、自然と『頑張る』とか、そんな前向きな気持ちは失われていく。