恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……なんて、一丁前にやり甲斐なんて求めてるのかって、思われるかもしれないですけど」
『仕事もろくに出来ないでやり甲斐を求めたり必要とされようと思うのがそもそもの間違いであって……』と叱られるのが想像出来た私は、言われる前に自らそう言って鼻で笑う。
「いーや、大事だろ。それも」
「え?」
けれど、彼からこぼされたのは予想とは全く違う言葉。
「誰だって『代わりなんている』なんて言われればヘコむし、自分を必要とされたいのは当然だよ。それを求めるのは、贅沢でも何でもない」
穏やかなその一言に、驚いてしまう。怒られなかった。呆れられたり笑われたりもせず、肯定されるとは思わなかった。
理解してくれたことが、少し嬉しい。
「けど事務職が合わないってことは、ここはお前に合うかもな」
「どうして、ですか」
「旅館はいろんな人がきて、毎日慌ただしいからな。飽きないぞ」
笑いながら、短くなった煙草を手元の灰皿にしまう。
「お前、昨日この旅館に来た時どう思った?」
「え?」
「俺や仲居に出迎えられた時」
旅館に来た時……昨日の気持ちを思い出す。
皆が笑顔で出迎えてくれて、あたたかな気持ちになった。優しい気持ちになった。
「……もてなされてるなーって、思いました」
「ぶっ」
その漠然とした気持ちをなんとなくの言葉で表すと、芦屋さんは噴き出すように笑う。