恋宿~イケメン支配人に恋して~
「な、なんですか」
「いや……なんの捻りもなく率直な感想だと思って」
悪かったですね……。
バカにされたようにも感じて少しムッとしてしまう私に、彼は笑顔のまま。
「けどそれ、大事な感覚だよ。それが俺たちの『おもてなし』の結果」
「おもてなし……?」
「あぁ。おもてなしはお客様を思う心だ。それは誰かに代わりなんて出来ない、ひとりひとりそれぞれの形がある」
『誰かに代わりなんて出来ないこと』。それを言い切ると、彼は長い指でこちらをビシッと指差す。
「多分今のお前にやる気が見えないのは、旅行先でいきなり働かされてるから」
「そりゃあねぇ……」
「それと、なにをどうすればいいか、自分になにができるかがわからないから」
わからない、から。自分に出来ること、どうすればいいか。
「ならとりあえず、言われた仕事を丁寧にやる。いきなりあれもこれもは無理でも、出来ることからひとつひとつやってみろ」
「出来る、こと……」
迷う心をしっかりと導くような、真っ直ぐな言葉。
揺らぎのないその言葉に、頷けるような頷けないような複雑な気持ちでいると、彼はそんな私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
子供を宥めるような、あたたかな大きな手。その手に彼を見上げると、目の前には微笑む顔がある。
わ……笑顔。
それまでの不敵な笑みとも、昨日の支配人としての笑顔とも違う、柔らかな笑顔。その表情に、不覚にもちょっとドキッとしてしまう。