恋宿~イケメン支配人に恋して~
「じゃあこれから、チェックイン準備を始めます」
休憩を終えた午後13時、2階のフロアには八木さんは明るい声が響く。
「本日のご宿泊は、まず202号室に大人2名」
八木さんに言われ確認するのは、どの部屋に何名が泊まるかが書いてある宿泊表と呼ばれる紙。
毎日、仲居一人につき一枚渡されるこの宿泊表は何号室に大人が何名・子供が何名、アレルギーや年齢とお客さんの情報が事細かに書いてあり、この旅館では仲居に欠かせない必需品なのだそう。
それを見ながら部屋へ入ると、そこは私が昨日宿泊した部屋と同じ造りをしていた。
「まずクローゼットを開けて、浴衣・帯・タオル・バスタオルを人数分用意して入れます」
「はい」
あらかじめ廊下に用意していた台車に乗せてあったタオルや浴衣を手にとり、クローゼットへとしまう。
「そしたら次は、室内チェック。清掃さんが掃除した後だから一応は綺麗なんだけど、たまに水気や髪の毛が落ちていたりするから、よーくチェックしてね」
「はーい……」
ベッド周りを確認する八木さんに、私も言われた通り浴室へと向かう。
水気、髪の毛……。真っ白な浴槽と壁に小さな鏡のついた浴室内。その中をまじまじと見れば、浴槽の端に黒く短い毛が一本落ちているのが見えた。
あ……あった。けどこれくらい大丈夫かな。気付かないかも。
そう一度見て見ぬふりをして浴室を出ようとする。