恋宿~イケメン支配人に恋して~
「うぁぁぁ~ん!!」
チェックイン準備を終え、八木さんとフロントへと戻ると、そこはなにやらにぎやかな声が響いている。
「どうしたのかしら」
「子供……ですかね」
子供の激しい泣き声に目を向けると、フロント前のロビーには顔を真っ赤にして泣きじゃくる3歳くらいの女の子と、それを必死にあやす仲居のおばさんたちの姿。
その横では、芦屋さんが苦い顔で立っている。
「千冬さん、どうかしたんですか?」
「あぁ、八木。あれどうにかしてくれ。303号室の連泊の家の子供なんだが、かれこれ一時間泣きっぱなしだ」
そういえばあの子供……朝食の時に私にぶつかってきた子だ。
「一時間!?ご家族はどうしたんですか?」
「それがあの子ひとり残して買い物に出かけたみたいでな。多分寝てたから置いていったんだろうけど……起きてから誰もいないことに気付いて、あの泣っぷり」
芦屋さんのげんなりとした視線の先では、まだ「うわぁぁ」と泣く女の子。やまない大絶叫に、これを聞かされ続けたら確かにげんなりもしてしまうだろう。
おばさんたちがあの手この手で泣き止ませようとあやすけれど、一向に泣きやむ気配はない。