恋宿~イケメン支配人に恋して~
「おんぶ……?」
「うん。おんぶでお外連れて行ってあげる。そこで一緒に、お母さん待とうね」
「……うん、」
『お母さん』、その言葉に反応したように、泣くのをやめ小さな手で私の背中にしがみつく。そんな女の子を背中に背負うと、私はそのまま旅館の外へと歩き出した。
思ったより重い小さな体を落としてしまわないように、まっすぐに背負う。
「名前、なんていうの?」
「……えみ」
「えみちゃん、か。いきなりお母さんいなくてびっくりしちゃったよね。でも大丈夫、すぐ戻ってくるからね」
耳の後ろから聞こえる声は、先ほどの泣き叫ぶ声とは打って変わって、とても可愛らしいもの。
「ほんと?」
「本当だよ。あ、ほら見て。お空大きいね」
「おそら……」
見上げると、頭上に広がる大きな青空。綿菓子のような白い雲が漂い、目の前の山と綺麗に景色を彩る。
「くもー!ふわふわ!」
「そうだね、ふわふわ。あ、あのくも、猫さんに見えない?」
「ねこー?」
雲の形を何かに例えるなんて、子供の時以来。思えば、こんな穏やかな気持ちで空を見上げたのも久しぶりで、東京と同じ空なのに気持ちはこんなにも清々しい。
「迷子の迷子の子猫ちゃんー、あなたのおうちはどこですか~」
えみちゃんを揺らしながら歌い出す私に、えみちゃんは楽しげにきゃっきゃと笑う。