恋宿~イケメン支配人に恋して~
「にゃんにゃん、にゃにゃーん、にゃんにゃんにゃにゃーん」
するとブロロロ……と音を立てやってきたのは一台のバス。
あれは確か、駅から出ている循環バス。私もくる時に乗って来たもので、この旅館と街をつなぐものだ。
「えみ!」
「あっ!ままー!」
そこからバタバタと駆け出してきたのは、まだ若い女性。えみちゃんのお母さんであろうその女性は、ひどく慌てた様子でこちらけ駆け寄る。
「えみー!ごめんね、置いて行って……ってあれ?旅館の人から大泣きしてるって連絡貰ったから急いで戻ってきたんだけど」
「おねぇちゃんがねぇ、にゃんにゃーんってねぇ」
予想とは違ったのだろう表情に、拍子抜けした様子のお母さんに私はそっと背中のえみちゃんを渡す。
細い腕にぎゅっと抱き締められ、えみちゃんもうれしそうだ。
「すみません、ありがとうございました!」
「……いえ、別に。私は何も」
「本当にご迷惑をおかけして……えみが寝てたもので、少しなら大丈夫だと思って」
改めてぺこぺこと頭を下げるお母さんに、無愛想なままえみちゃんの頭をよしよしと撫でる。
「ほらね、えみちゃん。言ったでしょ?すぐにお母さんくるよって」
「うん!ありがとぉ、おねぇちゃんっ」
涙もすっかり渇いて、にっこりと向けられた笑顔。幸せそうなその表情に、つられてついこちらまで笑顔になる。
そしてお母さんは、えみちゃんを連れて一度旅館の中へと戻って行く。それと入れ替わるように、バタバタとこちらへ駆け寄ってくるのは仲居のおばさんたち。