恋宿~イケメン支配人に恋して~
「吉村さん、すごいじゃない!あっという間に泣き止ませちゃって!」
「やるわねぇ、見直したわ!さっきは陰口みたいな言い方してごめんねぇ」
「わ、いや……あの、」
一気に囲みわいわいと騒ぐおばさんたちにどんな顔をしていいかわからず戸惑ってしまうものの、先程とはうって変わったそのムードに、きっと良くも悪くもストレートだけで悪い人たちではないのだろうと知る。
「子供の件もひと段落したことだし……もうすぐチェックインだぞ。全員持ち場に戻れ」
「はーい」
続いてやって来た芦屋さんの声に皆はぞろぞろと中へと引き返し、その場には私と彼だけが残された。
「よく思いついたな、おんぶで気分転換なんて」
「……他のもの見れば気が紛れるかと思って」
可愛げなくぼそ、と言うと、芦屋さんはふっと笑う。
「ほら、ひとつ見つかっただろ」
「え?」
「自分にしか、出来ないこと」
その言葉とともに私の頭をくしゃくしゃと撫でる大きな手。まるで子供を褒めるような手に、感じるのはなにも言い返せない複雑さのような、嬉しさのような、微妙な気持ち。
自分にしか出来ないこと、それはまだ漠然としか掴めない。
だけどもしかしたら、ここで働くこれからの一ヶ月で、自分の人生が変わってしまうくらいの何かがあるんじゃないかって、そんな期待を感じられた。
笑う彼の背後には爽やかな青空が広がっている。