恋宿~イケメン支配人に恋して~
*2

4.ひとつ、ひとつ




壮大な自然、天然の温泉、美味しい料理。それらに癒されるべく、一人やってきた旅行。

そこで私を待っていたのは、心穏やかな時間……ではなく、仲居として働く慌ただしい時間。



それと、笑顔の素敵な猫をかぶった鬼支配人でした。





「……おい」

「んー……もうちょっと、」

「……もうちょっと、じゃねぇ!!」



昨日の疲れもあり、まだぐっすりと眠っていた朝。寝ぼけた意識の中で響いた低い声をぼんやりと聞いていると、次の瞬間ガバッと奪われた布団。



「ぎゃっ!?」



一気に寒くなる体に飛び起きると、目の前には奪った掛け布団を手に仁王立ちをする黒いスーツ姿の彼……芦屋さんがいた。



あ、芦屋さん!?

驚きに一気に目が覚め、はだけていた浴衣を急いで手で直す私に彼は目をそらすこともない。



「なっなんでいきなり……!?ここどこだと思ってるんですか!?女性の部屋ですよ!?」

「何が女性だ……もう5時半過ぎてるんだよ!寝坊!」

「え?あ、本当だ」



言われて見れば、壁にかけられた時計は5時40分を指している。



「5分で支度してダッシュで来い。いいな?」

「は!?5分ってそんなの無理……」

「あぁ?」

「……出来るよう、心がけます」



じろりと睨むその目に反論するのをやめ、渋々頷く私に彼は「ふん」と偉そうに笑うと部屋を去って行く。

手にしていた掛け布団を私の頭にバサッとかけて。



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