恋宿~イケメン支配人に恋して~
……なんて、5分なんて無理に決まってるじゃん。ったく、いきなり部屋に入るわ布団は剥ぎ取るわ……横暴すぎる。
布団をたたみながら見渡す部屋は、テレビとテーブルがあるだけの小さな和室。
『宿泊客ではないから』と私が移されてきた部屋は、お客さんが泊まる部屋がある本館から細い廊下を抜けた先にある、別館。
休憩室や社員食堂など従業員のための部屋がある別館。ここ3階フロアには、夏休みや冬休みなどに雇われる短期の住み込みバイトが泊まるための部屋がいくつか並んでいる。
その中の一番角部屋、私がいる部屋はユニットバスのついた狭い和室。
景色は客室と変わらないけれど、やはりあちらの広さや綺麗さを知っていると少しがっかりしてしまう。
ちなみに私の真上の階は、芦屋さんの仕事兼仮眠部屋だそう。『うるさくしようものならぶん殴る』と、本気でやりかねない目で言われた。
「あー……だるい。けど頑張りますか」
とりあえず、300万円のために。
深呼吸をひとつすると、先日八木さんから貰った着付けのやり方が書いてある紙を見ながら、慣れない手つきで着物を着る。
そしてうっすらと化粧をして、茶色いままの髪をまとめ……それなりに身なりを整え部屋を出た。
そんな、旅行3日目の始まり。