恋宿~イケメン支配人に恋して~
「おはようございます。……すみません、寝坊しました」
「おはよう、理子ちゃん。朝から千冬さんに怒られて大変だったねぇ」
やって来た広間で皆が朝食準備をする中、ぺこりと小さく頭を下げた私に、怒る芦屋さんの姿が簡単に想像ついたのであろう八木さんはうふふと笑う。
「じゃあ、今日も朝食準備から始めようか」
「はい」
頷くと仲居のおばさんたちにも「おはようございます」と小さく声をかけながら、私も混じって朝食を一皿ずつ並べていく。
バタバタとするうちに仲居1日目を終え、疲れから即寝付いた昨夜。
昨日の一件からおばさんたちとも少しずつ仲良くなれている気がするし、芦屋さんの怖い顔にも少しずつ慣れつつあるものの、まだ仕事に関しては戸惑うことばかり。
「おはようございます、本日はなめこと豆腐のお味噌汁となっております」
練習した一言を言いながら、やって来たお客さんである年配女性の席にごはんと味噌汁を置く。
「おはよう、美味しそうなごはんねぇ。このお魚はなに?」
「えーと……メヒカリ、じゃなくて、メザシ、じゃなくて……め、め……」
「めかじき?」
「あ、それです」
聞かれてすぐ答えるどころか、うろ覚えでなかなか出てこない名前に、寧ろお客さんに教わってしまった。
そんな私がおかしかったのか、お客さんはふふと笑みをこぼす。