恋宿~イケメン支配人に恋して~
「最初は思いもしなかったけど、お前意外と根は真面目なんだなぁ。よかったよかった」
「……別に。そういうのじゃないです」
「はいはい、素直じゃないってことも分かってきたよ」
彼が呆れたように笑うと、次の瞬間突風がビュウッと吹いた。
「わっ……」
髪も着物の裾も、一瞬にして乱れるほどの強い風。収まり目を開ければ、せっかく集めたごみもまた散らばってしまっている。
「あー……」
せっかく集めたのに……仕方ない、また集めよう。
少しがっかりしながらまた掃き直そうとすると、芦屋さんは風で乱れた自分のネクタイや髪を直しながらこちらを見る。
「すごい風だな……あ、おい。髪すごいことになってるぞ」
「え?」
髪?そんなにすごい?
自分では全く分からずきょとんと首を傾げると、仕方ないとでもいうように彼はつけたばかりの煙草を消し携帯灰皿にしまうと、こちらへと近付いてきた。
「ほら、ここ」
そうそっと前髪を整える指先は、長く繊細だ。
こうして改めて目の前に立つと、背の高い人だと思う。黒い瞳は落ち着き、初めて顔を見た時は優しそうな人だと思ったけれど、薄い唇と黒い髪の隙間から見える整った眉は少し冷たくも見える。
……綺麗な、人だなぁ。
背景の緑色がよく似合う人。怒ると当然怖いけれど、普通にしていると感じる印象は寧ろ真逆。
どっしりとしているというか、安定感があるというか。不思議な、安心感。