恋宿~イケメン支配人に恋して~
「ん?どうかしたか?」
「……本当、顔だけはいいんだと思って」
「顔『だけ』か」
「顔『だけ』ですね」
見惚れていた、に近い感覚。けれどそれを正直に言えるわけもなく誤魔化す私に、その言葉が気に食わなかったようでまたその眉間にはシワが寄る。
「……1ヶ月に2日追加、と」
「あー!!」
また増やされた!
「あ、理子ちゃんいたいた……ってあら、お邪魔?」
「え、あっ、八木さん!」
すると、裏口からひょこっと顔を覗かせたのは八木さん。突然のその姿に驚き、つい芦屋さんからパッと離れた。
し、しまった。八木さんは芦屋さんの恋人なのに……誤解された?修羅場?それだけは困る。
嫌な想像をして背中に汗をかく私に、平静を装っているのかそもそも気にしていないのか、八木さんは笑顔のまま。
「業者さんが差し入れでお菓子くれたの。理子ちゃんも向こうで皆とお茶にしましょ」
「あ……でも、これ」
「いいよ。後は俺がやるからお前は皆の所行ってこい」
まだ掃除がやりかけだから、そう言おうとしたものの芦屋さんは私の手からほうきをとり背中をトンと押す。
「けど、いいんですか」
「おー。寧ろさっさと済ませてゆっくり一服したいから、お前がいない方がいい」
「……そうですか」
なんかムカつく言い方だな。
そんな言われ方をすれば行くしかなく、私は八木さんと二人休憩室へ向かおうとその場を歩き出した。