恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……」
ちら、と廊下の窓から裏口のほうを見れば、先ほど私がいた場所でひとりほうきで掃き掃除をする芦屋さんの姿。
その、細い体が目をひく。
「……やっぱり、私お茶いいです」
「え?あっ、理子ちゃん?」
八木さんを置き去りに、くるりと体の向きを変えて早足で戻り出した。
ひとりで、頑張る人。だけどそれでいいの?誰かを支えるのに、誰にも頼らずに。
『出来ることからひとつひとつやってみろ』
そんな彼を見て、ひとつ私に出来ること。
「……芦屋さん」
「ん?あれ、どうした」
裏口に戻ってきた私に、彼は少し驚いた顔でこちらを見る。「ん」と手を差し出すと、「ん?」と首をかしげた。
「やっぱりやります、掃除」
「え?いや、お前皆の所行けって……」
「元々は私がやりだしたことなんで」
笑顔で言えばもう少し可愛らしくもなるだろう。けれど相変わらず愛想はないまま、その手からほうきを奪い掃き始める。
サッ、サッ、と一カ所に集まる葉っぱやごみ。足元には、彼の黒い革靴がツヤめく。
「それに、疲れちゃいますから」
「え?」
「芦屋さんもひとりでなんでもやってたら、疲れちゃいます」
気を張っても、頑張っても、ひとりではきっと疲れてしまうから。
私は自分に出来ることの範囲で、ひとつひとつ、一緒になにかを手伝うよ。
言い切ってまた掃除を続けると、目の前の芦屋さんは口元に手を当てふっと笑う。