恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……驚いたな」
「へ?」
「初めてだよ、そんなこと言われたの」
私に言われたことがおかしそうに、けれどどこか嬉しそうに笑う。
偉そうでも愛想笑いでもないその笑顔は、明るく可愛らしい表情。不覚にも、胸の奥がキュンと音を立てた。
「……2日目のぺーぺーに言われたのがそんなにおかしいですか」
「おかしいっていうか……嬉しいもんだな。そう言われるのは」
『嬉しい』、その言葉とともにまた褒めるように頭を撫でる大きな手。
よく出来ました、とでもいうような優しい手に恥ずかしくなってしまう。
「……子供扱い、やめてください」
「30歳からすれば世間知らずの23歳なんて子供みたいなものだろ」
「30!?顔若い……」
「ちなみに若く見えるけど八木は29な」
八木さん、29歳!?
芦屋さんが30歳ということにも驚いてしまうけれど、見た目私と変わらなそうな八木さんが6歳歳上ということにも驚いてしまう。
み、みんな顔が若いな……!
「あ……芦屋さん、」
「千冬」
「え?」
「千冬でいい。皆そう呼ぶからな」
千冬……さん。
心の中で小さく呼んだ名前が、少しくすぐったい。
「さっさと終わらせて行くぞ、理子」
「えっ、あっ、はい!」
『千冬』『理子』、なんてことない呼び名ひとつで近付いた気がする距離。
その響きが、なんだか嬉しく感じられた。
ひとつひとつ、なにかが変わりだしていく。