恋宿~イケメン支配人に恋して~
そして、チェックイン時間の午後15時。
旅館の入口へやってきたお客さんに、仲居のおばさんたちは「きゃあっ」と嬉しそうな声をあげる。
そこにいたのは若い両親と、ベビーカーに乗せられた双子の赤ちゃん。そう、あの305号室のお客さんだ。
「いらっしゃいませ~、あらやだ可愛いわねぇ、いくつ?」
「1歳です。女の子の双子で」
「ふたりとも顔そっくり!可愛い~」
微笑むお母さんの前で皆代わる代わるベビーカーを覗き込み、キャーキャーと赤ちゃんを愛でる。
人見知りしないのか、赤ちゃんもきゃっきゃと喜び楽しそうだ。
……本当、みんな子供好きなんだなぁ。
少し離れた位置でぼんやりとその光景を見ていると、なにやら薄い板のようなもので頭をパシッと叩かれた。
「いてっ」
「ぼんやりするな。お客様のお出迎えだぞ」
振り向けば、同じくお出迎えに来たらしい千冬さん。その手に持つ黒いボードで頭を叩かれたのだろう。
「……あれだけ皆に笑顔で出迎えられれば、ひとりくらい仏頂面が居たって気になりませんよ」
「寧ろ余計気になるだろ。つーかなに、お前この前あんなにいいあやし方してたのに実は子供苦手?」
「子供、好きそうに見えます?」
「まぁ確かに見えないけど」
そう、私は子供は苦手。普段接する機会がないからっていうのもあるけれど、すぐ泣いたり笑ったり……扱いが難しすぎる。
この前の女の子・えみちゃんの時だって、ただおんぶをしただけで特別なあやし方はしていない。
無愛想なままその場に立っていると、不意にくいっと引っ張られる着物の裾。