恋宿~イケメン支配人に恋して~
「でも大樹くん、折角家族で旅行に来たのに皆と過ごさなくていいの?」
「……いい。どうせおれなんていなくても、おかあさんたちはふたごがいればしあわせだし」
「え?」
ぼそ、と大樹くんが言った言葉に首を傾げる。
双子がいれば幸せ……?
そういえばさっき、お父さんもお母さんも双子の赤ちゃんにかかりっきりで大樹くんのことを全く気にかけていなかった。
千冬さんに言われなかったら、大樹くんの家族があの4人だと分からないくらいに。
「ふたごだし、ふたりがほしがってたおんなのこだし。だからおれより、ふたごのほうがだいじなんだよ」
相変わらず大人びた口調で言うけれど、その言葉はどこかたどたどしく瞳は寂しげに見える。
……そっか。大樹くん、寂しいんだ。
寂しいから生意気なことやいたずらで気を引いて、でも大人ぶって、本当はお父さんにもお母さんにも甘えたいのに。
その不器用さは、なんだか自分を見ているような気持ちになる。
「……じゃあ、ご要望通り相手してあげようかな」
「あいてって……なにすんの?げーむもあきたしてれびもきょうみないんだけど」
「なら、探検にいこ」
「へ?」
手元のお茶をグビグビッと飲み干すと、からになった空き缶をゴミ箱へと投げ入れる。
「いつもは見られないようなところ見せてあげる。大樹くんにだけ、特別にね」
その言葉の意味をわからなそうに首を傾げる大樹くんに、私はふっと笑い立ち上がり大樹くんの腕を引いて歩きだした。