恋宿~イケメン支配人に恋して~
そしてやってきたのは、先程まで皆といた旅館の入口・フロント。
そこには黒いスーツ姿にオールバック、メガネをかけた若いフロントマン・大渕さんがいる。
「あれ、吉村さんどうしたの?」
「大渕さん、この子ちょっといろいろ見学させてあげてもいいですか」
「うん、いいよ」
一見冷たそうに見える外見とは真逆に明るく話す大渕さんは、大樹くんに笑顔を見せて裏の事務所へと通す。
「事務員のお姉さん方ー、可愛いお客様ですよー」
「え?わっ、かわいいー!宿泊客?何歳?」
「お名前は?あっ、お菓子あげようね」
事務所には比較的若めのお姉さんたちが多く、大樹くんを見た途端わっと取り囲み、かわいいかわいいとチヤホヤする。
そんな扱われ方に慣れていないのか、大樹くんは恥ずかしそうに黙るとちらっと私を見た。
「大樹くん、ここはこの旅館の事務の仕事をする人たちの部屋なんだよ」
「じむ?こんなちいさいりょかんなのに、こんなにひとがひつようなわけ?」
「そう。お客さんやお金のことから、働く人たちのこと、いろいろなことをやるにはこれだけの人が必要なの」
話すうちに事務員のお姉さんたちは適当なスーパーの袋いっぱいにお菓子を詰め込んでくれ、それを大樹くんへと持たせた。
「はい、お菓子。なにもないところだけど、ゆっくりしていってね~」
にこにこと笑うお姉さんたちに、大樹くんは恥ずかしそうに小さく頷く。
それがまた可愛らしいらしく、「きゃーっ」とあがる甘い声を聞きながら、事務所を出た。