恋宿~イケメン支配人に恋して~
「つぎは?」
「次は……じゃあ、ご飯作ってるところ行く?」
そのままの足で、私は大樹くんを連れ従業員用エレベーターで地下へと向かい、調理場へと入った。
夕飯の支度前の時間帯ということもあり、そこには年配と30代くらいの板前さんと、まだ若い調理補助の男の子が、食器を並べ準備をしていた。
「お疲れ様です」
「おー、理子ちゃん、だっけか。どうした、珍しいな」
「この子に調理場の見学をさせてあげたいんですが」
口元をにこりともさせず言う私に、兄貴タイプの若い板前・島崎さんは笑顔で出迎えると大樹くんの頭をわしわしと撫でる。
「おう、いいぜ。じゃ、折角だしカットフルーツを見せてやろう」
「かっとふるーつ?」
奥から林檎をひとつ持って来て、包丁でくるくると皮をむく。そして切れ目を入れ、形を整え……瞬く間に綺麗な花の形に仕上げた。
「す、すげー!」
「本当……すごい」
「だろ?日頃料理の彩りにこういう技使うからな、板前は芸術性と繊細さが大事なんだぜ」
ふふんと笑う島崎さんに、大樹くんは林檎をまじまじと見る。かと思えば容赦無く、ばくっと林檎を頬張った。
「なんだ、あじはふつー……」
「って、おい!もっと見ろよ!目でも味わえよ!」
「島崎さん、子供にそれはちょっと難しいかも……」
折角作った林檎の花もあっという間に食べられてしまい、不満げに文句を言うものの、大樹くん相手にもにこにこと楽しそうだ。
そんな彼につられてか、次第に大樹くんの顔にもこぼれる笑顔。
「よし、りこ!つぎはどこいく!」
「はいはい、どこに行こうかなー」