恋宿~イケメン支配人に恋して~
それから私と大樹くんは、ふたりで館内中を回った。
休憩室に行っておばさんたちに可愛がられ、システム室に行って特別に機械を眺めさせてもらって、裏庭の大きな池の鯉に餌をあげ……一緒に時間を過ごすうちに、大樹くんとも随分仲が良くなった気がする。
「あ、もう17時だ」
ふと気がつけば時刻はもう17時。
窓の外には夕焼け空が広がり、あっという間に沈んでしまうだろうと感じられる。
「大樹くん、そろそろお風呂入ったら?そしたら晩ご飯の時間だよ」
「……りこは?」
「私は仕事に戻るかな。あんまり遊んでたら怒られちゃう」
しゃがみ込み大樹くんに視線を合わせながら答えると、「そっか」と物分りのいい返事とは裏腹に、その顔はすごく淋しそうだ。
部屋に戻ればまたひとりになってしまうのが、淋しいのだろう。
そうだよね。大好きなお父さんお母さんと旅行に来たのに、ふたりの目は妹たちに向いて……そんなの、淋しいよね。
だけど、私に出来るのはここまでだから。
「……ねぇ、大樹くん。思ってること素直に言ってみたらどうかな」
「え……?」
「お父さんお母さんに、自分も寂しいってこと、言ってみようよ」
寂しいなら『寂しい』と、見てほしいのなら『こっちも見て』と、言ってみようよ。
言わなくちゃ伝わらない。見た目ほどお兄ちゃんじゃない、まだ5歳の男の子のこころ。
「……べつに、さみしくなんてない」
「嘘だ」
「うそじゃない!べつにふたりなんていなくたって……」
するとその時、廊下の向こうからはわいわいと歩いて来る姿。
それは既に浴衣に着替えた、大樹くんの両親とそれぞれの腕に抱かれた双子の赤ちゃんだった。