恋宿~イケメン支配人に恋して~
「あら、大樹まだお姉さんに遊んでもらってたの?仲居さんすみません、ずっと相手してもらってて」
「あ……いえ、」
「大樹ー、風呂いい湯だったぞー。あとで行ってみろ!」
双子のことばかりで大樹くんの気持ちに微塵も気付いていないのだろう、若いふたりはにこにこと笑う。
「……あの、大樹くんとは一緒に入ってあげないんですか」
「え?」
「折角一緒に来たのに、大樹くんとは過ごしてあげないんですか……?」
そんなふたりに、つい私は思ったことをそのまま言ってしまった。
ただの仲居が、家族のことにあまり立ち入るべきではないのかもしれない。だけど大樹くんのこころを思うと、言わずにはいられない。
「けど……なぁ?これからふたりのごはんと寝かしつけなきゃいけないし、大樹だってもうお兄ちゃんなんだからなんでもひとりで大丈夫だろ?」
けれどそんな気持ちは微塵も伝わっておらず、へらっと言ってみせたお父さんに、大樹くんは下を俯き小さな拳をぎゅっと握る。
「……りょこうなんて、くるんじゃなかった……」
「大樹?」
「ふたりはやっぱり、ふたごさえいればいいんだろ!ふたごがいればしあわせで、おれなんていらないんだっ……きらい!おとうさんもおかあさんもふたごも、みんなきらい!だいっきらい!!」
悲鳴にも似た、小さな大樹くんの大きな悲しみの声。
それとともに大樹くんは、その場を駆け出した。
「大樹くん!!」
走り出す小さな姿を放っておけず、私も走り出す。
着物の足元は走りづらくあまり速さは出ないけれど、それでも必死に大樹くんを追いかけて。
「大樹くん!待って、」
「ついてくるな!りこもきらいだ!」
ふたりバタバタと足音をたて、旅館の中を走って行く。他のお客さんの前でこんな風に騒がしくしたりして、また千冬さんに怒られてしまうかもしれない。
だけど今、大樹くんをひとりにしておくことなんて出来ないから。