恋宿~イケメン支配人に恋して~
「待ってっ……」
追いかける私に、そのまま大樹くんは一番奥の男風呂へと駆け込んで行った。
「ここならりこもついてこれない……」
「大樹くん!!」
「えっ!?」
男風呂なら私がついてこれないと思ったのだろう。けれど、必死な私は止まることなくそのまま脱衣所を抜け浴室へと駆け込んで行く。
「逃げないでっ……もう一回話そう!?」
「はなすことなんてない!あれがおれのしょうじきなきもちだもん!」
「そんな……あっ!」
湯気たつ蒸し暑い浴室を走る大樹くんの目の前には、熱いお湯の入った浴槽。
「うわっ!」
「大樹くん!!」
気付くことなく走っていた彼は浴槽のフチに足をつまずかせ、落ちそうになってしまう。
あのままの勢いで落ちたら底に頭をぶつけてしまうかも。熱さにやけどをしてしまうかも。それらの気持ちから私は手を伸ばし、大樹くんの体をぐいっと引っ張る。
そして浴槽の手前でなんとか大樹くんの体をとどめるものの、勢いの止まらぬ私の体は代わりに浴槽へと飛び込んで行った。
「あっ、うわっ!ぎゃー!」
悲鳴と、バシャーンッ!と勢いのいい飛沫とともに。
「り、りこ!?」
「う~……鼻にお湯入った……」
鼻の奥にツーンとくる痛みに泣きそうになりながら浅い浴槽から顔を上げると、頭から爪先までびしょ濡れになった私はげほっと咳をひとつした。
「だ……だいじょぶ?」
「うん、けどちょっと熱いから大樹くんが落ちなくてよかった」
「なんで……そんな、おれのために?」
驚きを隠せない様子の大樹くんに浴槽から上がると、お湯で濡れた着物の袖をぎゅっとしぼる。