恋宿~イケメン支配人に恋して~
「大樹くんが本当に言いたかったのは、さっきの言葉じゃないよね」
「え?」
「『みんなきらい』、なんて……そうじゃないよね」
『おれなんていらないんだ』
『みんなきらい!だいっきらい!』
さっきの大樹くんの言葉が、本音とはとても思えない。
だって寂しそうな顔をしていた大樹くんは、そんな気持ちを抱いているようには見えなかったから。
むしろ、好きだからこそ寂しさを感じていると思うから。
「……ほんとは、さみしい」
「……うん、」
「おとうさんもおかあさんもだいすきだよ、ふたごだって……かわいいんだ。だけど、おにいちゃんだからっていつもひとりで、さみしい……」
ぽろぽろと涙をこぼし始める大樹くんに、私はその黒い髪をよしよしと撫でる。
「じゃあそれを、素直に言ってみよう?気持ちは言わなくても伝わることばかりじゃないから、ちゃんと言わなきゃ」
「……けど、」
勇気が出ない、恥ずかしい、それらの気持ちから言えないのだろう。
だけど、ね。
「……私も、素直に言えなかったんだ」
「え?」
「好きな人に『好き』って言えなくて、いつも素直になれなくて……結局気持ちは伝わってなくて、その人とさよならしちゃった」
素直に言えなかった。想っていることも、なにも。
だから離れてしまった心。言えていたら、悲しい結末も待っていなかったかもしれない。
だからこそ、そうなる前に知ってほしい。
「寂しい気持ちも、好きな気持ちも、言わなきゃ伝わらないから。いいんだよ、お兄ちゃんだってたまにはワガママになったって」
へへ、と笑った私に、大樹くんは泣き顔のまま小さく頷いた。
「大樹!大樹っ……」
すると、後から慌ててやってきたのは大樹くんの両親。双子は仲居の誰かに預けて来たのか、ふたりはバタバタと浴室へ入ると大樹くんの元へ駆け寄った。