恋宿~イケメン支配人に恋して~
「おとうさん、おかあさん……」
「大樹、ごめんねっ……お母さんたち、大樹がそんなに我慢してるなんて知らなくて……」
抱き締めるお母さんに、大樹くんはぎゅうっと抱きつく。するとお父さんは私へ小さく頭を下げた。
「……仲居さん、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「いえ。でも……あの、ひとつだけ」
「え?」
「今日は大樹くんの話を、沢山聞いてあげてください。大樹くんの気持ちを聞いて、自分の思いも教えてあげてください」
きっと、親には親なりの思いや苦労もあるはず。だけどそれも言わなきゃ分からないこと。
だから、聞いて伝えてほしい。
真っ直ぐに向かって言った私に、お父さんは頷き、小さく頭を下げて浴室を出て行く。お母さんも同様に、細い体で大樹くんを抱き上げて小さくお礼をしてその場を去った。
大樹くん、素直に言えるといいな。明日からは笑顔で、家族みんなで過ごせたらいいな。
そんな思いを胸に抱いて、3人の後ろ姿を見送った。