恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……理子」
「へ?あ、千冬さん」
呼ばれた名前に我に返ると、そこには浴室の入り口で腕を組み立つ千冬さん。
その黒い瞳は、相変わらず少し冷ややかにこちらを見る。
「お前、今自分がどこに居るか分かってるか?」
「へ?どこって、浴室……」
千冬さんの問いかけに意味など分からずに辺りを見渡す。そこには私が先程飛び込んでしまった大きな浴槽と、窓の外にある露天風呂。
そして、その中でこちらを気まずそうに見る、全裸の男性たち……。
大樹くんを追いかけるのに夢中で周りが見えていなかったけれど、そういえばここ……男風呂だった……。
自分のしでかしたことに気付き引きつった顔で彼を見れば、千冬さんの顔は笑顔……のように見えるけれど、目は笑っていない。寧ろ静かに燃える怒りが見える。
「あ、あの……その、」
「とりあえず向こうの部屋に来るように。お客様、お騒がせして大変申し訳ありませんでした」
そして浴室の男性客たちに深々と頭を下げると、私を連れその場を出た。
あぁ、これはもう……間違いなく説教だ……!