恋宿~イケメン支配人に恋して~
「この度は、大変お世話になりました」
翌日、チェックアウトの時間を迎えたロビーでは大樹くんのお母さんが深々と頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。昨日大樹くんは大丈夫でしたか」
「はい、あの後3人でじっくり話をして……大樹の気持ちを聞いて、私たち親の気持ちも話して」
ちら、とお母さんが向けた視線を追えば、その先にあるのはベビーカーに乗った双子の赤ちゃんをひとりであやす大樹くんの姿。
きゃっきゃと笑う赤ちゃんと一緒に楽しそうに笑う大樹くんは、大人びた態度をしていた昨日よりよっぽどお兄ちゃんらしい。
「お恥ずかしい話、双子が生まれてからそのお世話に追われてばかりで……大樹が言う『大丈夫』を間に受けてしまっていました。けど昨日初めて大樹の口から『寂しい』って聞いて、反省しました」
「お母さん……」
「あなたに言って貰えて、良かったです。ありがとうございました」
にこ、と笑ったお母さんにつられてこちらまで笑顔になる。
「りこ!」
すると、ベビーカーの側にいた大樹くんは私に気付いたらしくこちらへと駆け寄ってきた。
「大樹くん。昨日はお母さんたちとちゃんと話出来た?」
「おー!おかあさんたちがたいへんなのもわかったから、おれもふたごのめんどうみてやるんだ!」
「そっか、いいお兄ちゃんだね」
ふふん、と誇らしげに言う大樹くんはやっぱり少し偉そうではあるけれど、昨日よりすがすがしい顔に見えた。