恋宿~イケメン支配人に恋して~
「りこのおかげ。ありがと」
「どういたしまして」
「りこもすなおになれよ!じんせーそんするぞ!」
「はは、それはご忠告どうも……」
相変わらず口は達者なのね……。
つい苦笑いをしていると、車に荷物を運び終えた大樹くんのお父さんが「行くぞー」と呼んでいる。
「あ、もういかなきゃ。じゃあな、りこ!りっぱななかいになれよ!」
「大樹くんも。いい男になるんだよ」
そして大樹くんは、小さな手を思い切り大きく振り歩き出す。
「ぜったい、ぜったいまたくるからな!」
『また来る』、そんな子供の口約束。きっと今日のことなんてすぐに忘れてしまうだろうし、そもそも大樹くんが次来る時には、私はいないだろう。
だけど、次を約束してくれることがすごく嬉しい。
私も、大樹くんのおかげだよ。自分の可能性を知ることが出来た。
「……ありがとう、ございましたっ……」
沢山の『ありがとう』の気持ちを込めて、深く下げた頭。
顔を上げれば遠くなる後ろ姿に、爽やかな風が小さく吹いた。