恋宿~イケメン支配人に恋して~
6.レールを歩いて
「聞いたわよ、理子ちゃん!この前男風呂に飛び込んだんですって!?」
「え!?」
それは、旅行10日目の昼間。休憩室でのこと。
午前中の仕事を終え皆でお茶でも飲もうかとしていた時、古株の仲居のひとりである中年女性・箕輪さんが思い出したように言った内容に私は思わず声をあげた。
「な、なんでその話を……」
「見かけた人がいたとかで、みーんな噂してるわよ」
「あ、私も聞いた。さすが東京の子は違うわねぇ、肉食系女子っていうの?」
「違います」
せ、先日の一件があらぬ噂に……。
あれこれと言って笑うおばさんたちの話を聞きながら、隣の八木さんがいれたお茶を苦い表情で並べる。
「あれは大樹くんを追いかけて行っただけです。あの後千冬さんに怒られて大変だったんですから」
「千冬くん、怒ると怖いからねぇ。でも面倒見いいでしょ!」
「面倒見いいっていうか……口うるさい」
確かに面倒見はいいのかもしれないけど……。
愛想なくぼそ、と言った私に、おばさんたちは目尻にシワを寄せあははと笑う。
「けど仲良いよねぇ、理子ちゃんと千冬くん」
「えぇ!?」
な、仲がいい?
まさかそんな風に見られているとは予想もしておらず、箕輪さんのその言葉にまたも驚きの声が出た。