恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……余計な話、したな。若者相手に語りたがるなんて、俺もおっさんになった証だ」
千冬さんはそう笑いながら立ち上がると、肩にかけてあったブランケットをそっと私の肩にかける。
「これ、ありがとな。お前も体冷やす前に向こう戻れよ」
面と向かって言われるお礼に、少し照れてしまう。その照れを隠すように視線を下に向けると、足元には千冬さんの黒い革靴が光る。
「あと、余計なお世話かもしれないけど、元彼と今無理に連絡取る必要はないと思う。けど、落ち着いてしっかり考えて、後悔しない方を選べよ」
「え……?」
「自分にも非があるとわかっているなら、やり直す道だってありだろ」
そして私の肩をぽん、と叩くと彼はその場を後にした。
……後悔、しない方を。
どうしてだろう。話す度、彼はいつも私が思いつきもしなかった道を拓いてくれる。
しっかりと考えよう。自分の心と向き合って、後悔をしない道を選ぶ。
手元の携帯は電源が入っただけで、まだ前には進めていない。だけど、不思議と軽くなった心に携帯をぎゅっと抱き締めた。