vivre【1】
翌日、青年は軽い朝食の後スラムの入り口にある店を再び訪ね、いくつかの依頼を確認だけすると、今まで立ち寄らなかった冒険者ギルドに足を運んだ。
冒険者ギルドは、その者の身分やランクを証明する魔力を帯びたカードを発行している。
冒険者にとっては通行手形に使えたり、冒険者ギルドが管理する銀行を利用できたりと色々と便利な仕組みになっている。
「ルー様でございますね。ランクBまでのご依頼でしたら受けられます」
このランクは、大まかにAからEまでにわけられている。
青年の場合、上から二つ目のランクBまでなら自由に依頼を受けられるのだが、ランクBは大抵一人の依頼が少ない。人数が増えれば取り分も減るし、青年は基本的に誰かと依頼をこなすつもりはない。
ランクAともなると、青年の偽造されたカードの身分では元より受けられないし、そういう理由もあってあまり冒険者ギルドに立ち寄ることはない。
昨日の報酬だけ預けると、青年は冒険者ギルドを後にした。
何度か王都にも足を運んだことはあった。
その度に区画整理やらなんだと街並みも少しずつ変化しているようだった。
それでも顔見知りの武器商や道具屋をまわり終える頃には、約束の時間が迫っていた。
宿に帰りつくと、カウンターの前でヴァレリーともう一人、初めて見る少女が立っていた。朝から出掛けているのを女将からでも聞いたのか。青年が戻ってくるのを待っていたようだった。
「あ、おかえりなさい!」
ヴァレリーが笑顔で出迎える。
隣に立つ少女もぺこりとお辞儀をして見せる。
「彼女はオルガ。昨日言った、私の友達」
「よろしくお願いします」
薄幸の美少女とでも言うべきか。
ヴァレリーが太陽なら、オルガは月だ。
銀色の髪に空のように澄んだ瞳。おどおどとしてはいても、その瞳はどこか慈愛に満ちている。
「…ルーだ。とりあえず、依頼の話は部屋で」
青年はそれだけ言うと歩き出した。
少女達ははしゃぎながら後をついてくる。
部屋に入ると、少女達にベッドに腰かけるよう言うと、ルーは粗末な椅子に腰かけた。
それまではしゃいでいた少女達も、途端に真面目な顔になる。
「それで。簡単には昨日聞いたけど、具体的な話はまだだったな」
「あ!そうですよね。えっと、課題の内容は王都ガレイアから南に3日ほど行った場所にある、フレミアの森に咲く花を持ち帰る事なんです」
フレミアの森。
太古より、長い年月を掛けて魔力を持った植物が魔物化し、森を支配している。
動物のような魔物もいないわけではないが、弱いものは魔物すら糧にしてしまう。
だが、このフレミア…つまりは森の名前にもなる魔物から取れる花弁や茎、葉などマジックアイテムとして利用価値が高い。
ヴァレリーやオルガのような駆け出しの魔術師やヒーラーにとっては非常に高価なものだ。
「フレミアか。それで、フレミアは生け捕りにするのか?お前たち、あの森に咲くフレミアがどの程度の大きさなのかわかってるか?」
「ええと…大きいものは人間よりも大きいと聞きます」
オルガが答える。
「生死は問わないと思います…。持ち帰ってマジックアイテムの材料にするので、必要な部位を必要な分持ち帰らないといけないので…」
ヴァレリーが必死に思い出しながら呟く。
他の冒険者に断られるはずだ。マジックアイテムはそれ自体が希少で、作るのに膨大な素材が必要になる。
まして、今回の依頼はヴァレリー達がそのマジックアイテムを持ち帰ることが目的である以上、一般の冒険者にとっては実入りが少ない。
かといって、欲を出して多目にフレミアを狩れるほど、この二人に実力はないだろう。
「なるほど。それで?俺が手伝うとして、お前達が俺に支払えるものはあるのか?」
「あう…。やっぱり、そうですよね…」
「仕方ないわよヴァレリー…。私達の実力じゃ、まだフレミアの森は難易度が高すぎるもの」
「そ、そうね…。あの、これ少ないんですけど、前金です。残りは無事に課題を達成出来て、マジックアイテムを作れたら、それをお金にして払います。多分結構な金額になるはずなので」
ヴァレリーが差し出した袋には、お世辞にも前金と呼ぶには少ない枚数の金貨が入っていた。
青年はそれを受けとると、そっとテーブルに置いた。
「まぁ、いいだろう。じゃあこっちの条件を言おう。まずひとつ。俺は個人的にお前たちから依頼を受ける。だから、課題は二人で達成したことにしろ。他の人間に何か突っ込まれても、そこだけは嘘を突き通せ」
「え…?そんなことですか?でも、ルーさんにメリットがないんじゃ」
「…ふたつめだ。道中、フレミア以外の魔物から採れる素材は俺が貰う。お前たちの取り分はフレミアのみだ。俺はフレミアからはなにも採らない」
青年の言葉に、二人はゆっくりと頷く。
「最後に。明日は一日、俺と準備に付き合うこと」
「え?」
思わずヴァレリーが首を傾げる。
「お前たち、どうせ学校の支給品で旅をするつもりだろ。そんなんじゃ死ぬぞ」
「で、でも」
「嫌なら断ればいい」
「い、行きます、けど」
ヴァレリーが渋々といった様子で頷く。
前金があの額なのだ。懐事情も想像に難くない。
「準備金位は用意してやるさ。マジックアイテムの金で釣りが来る」
翌朝、青年に伴われヴァレリーとオルガは街を歩いていた。
まず立ち寄ったのは魔術師ギルドだった。
魔術師ギルドは、冒険者ギルドの中でも、特に魔術師向けの依頼や店が入っていたりする。
依頼の他にも個別に主を求めるフリーの魔術師が雇い主を探す斡旋所の役割も持っている。
冒険者ギルドは、その者の身分やランクを証明する魔力を帯びたカードを発行している。
冒険者にとっては通行手形に使えたり、冒険者ギルドが管理する銀行を利用できたりと色々と便利な仕組みになっている。
「ルー様でございますね。ランクBまでのご依頼でしたら受けられます」
このランクは、大まかにAからEまでにわけられている。
青年の場合、上から二つ目のランクBまでなら自由に依頼を受けられるのだが、ランクBは大抵一人の依頼が少ない。人数が増えれば取り分も減るし、青年は基本的に誰かと依頼をこなすつもりはない。
ランクAともなると、青年の偽造されたカードの身分では元より受けられないし、そういう理由もあってあまり冒険者ギルドに立ち寄ることはない。
昨日の報酬だけ預けると、青年は冒険者ギルドを後にした。
何度か王都にも足を運んだことはあった。
その度に区画整理やらなんだと街並みも少しずつ変化しているようだった。
それでも顔見知りの武器商や道具屋をまわり終える頃には、約束の時間が迫っていた。
宿に帰りつくと、カウンターの前でヴァレリーともう一人、初めて見る少女が立っていた。朝から出掛けているのを女将からでも聞いたのか。青年が戻ってくるのを待っていたようだった。
「あ、おかえりなさい!」
ヴァレリーが笑顔で出迎える。
隣に立つ少女もぺこりとお辞儀をして見せる。
「彼女はオルガ。昨日言った、私の友達」
「よろしくお願いします」
薄幸の美少女とでも言うべきか。
ヴァレリーが太陽なら、オルガは月だ。
銀色の髪に空のように澄んだ瞳。おどおどとしてはいても、その瞳はどこか慈愛に満ちている。
「…ルーだ。とりあえず、依頼の話は部屋で」
青年はそれだけ言うと歩き出した。
少女達ははしゃぎながら後をついてくる。
部屋に入ると、少女達にベッドに腰かけるよう言うと、ルーは粗末な椅子に腰かけた。
それまではしゃいでいた少女達も、途端に真面目な顔になる。
「それで。簡単には昨日聞いたけど、具体的な話はまだだったな」
「あ!そうですよね。えっと、課題の内容は王都ガレイアから南に3日ほど行った場所にある、フレミアの森に咲く花を持ち帰る事なんです」
フレミアの森。
太古より、長い年月を掛けて魔力を持った植物が魔物化し、森を支配している。
動物のような魔物もいないわけではないが、弱いものは魔物すら糧にしてしまう。
だが、このフレミア…つまりは森の名前にもなる魔物から取れる花弁や茎、葉などマジックアイテムとして利用価値が高い。
ヴァレリーやオルガのような駆け出しの魔術師やヒーラーにとっては非常に高価なものだ。
「フレミアか。それで、フレミアは生け捕りにするのか?お前たち、あの森に咲くフレミアがどの程度の大きさなのかわかってるか?」
「ええと…大きいものは人間よりも大きいと聞きます」
オルガが答える。
「生死は問わないと思います…。持ち帰ってマジックアイテムの材料にするので、必要な部位を必要な分持ち帰らないといけないので…」
ヴァレリーが必死に思い出しながら呟く。
他の冒険者に断られるはずだ。マジックアイテムはそれ自体が希少で、作るのに膨大な素材が必要になる。
まして、今回の依頼はヴァレリー達がそのマジックアイテムを持ち帰ることが目的である以上、一般の冒険者にとっては実入りが少ない。
かといって、欲を出して多目にフレミアを狩れるほど、この二人に実力はないだろう。
「なるほど。それで?俺が手伝うとして、お前達が俺に支払えるものはあるのか?」
「あう…。やっぱり、そうですよね…」
「仕方ないわよヴァレリー…。私達の実力じゃ、まだフレミアの森は難易度が高すぎるもの」
「そ、そうね…。あの、これ少ないんですけど、前金です。残りは無事に課題を達成出来て、マジックアイテムを作れたら、それをお金にして払います。多分結構な金額になるはずなので」
ヴァレリーが差し出した袋には、お世辞にも前金と呼ぶには少ない枚数の金貨が入っていた。
青年はそれを受けとると、そっとテーブルに置いた。
「まぁ、いいだろう。じゃあこっちの条件を言おう。まずひとつ。俺は個人的にお前たちから依頼を受ける。だから、課題は二人で達成したことにしろ。他の人間に何か突っ込まれても、そこだけは嘘を突き通せ」
「え…?そんなことですか?でも、ルーさんにメリットがないんじゃ」
「…ふたつめだ。道中、フレミア以外の魔物から採れる素材は俺が貰う。お前たちの取り分はフレミアのみだ。俺はフレミアからはなにも採らない」
青年の言葉に、二人はゆっくりと頷く。
「最後に。明日は一日、俺と準備に付き合うこと」
「え?」
思わずヴァレリーが首を傾げる。
「お前たち、どうせ学校の支給品で旅をするつもりだろ。そんなんじゃ死ぬぞ」
「で、でも」
「嫌なら断ればいい」
「い、行きます、けど」
ヴァレリーが渋々といった様子で頷く。
前金があの額なのだ。懐事情も想像に難くない。
「準備金位は用意してやるさ。マジックアイテムの金で釣りが来る」
翌朝、青年に伴われヴァレリーとオルガは街を歩いていた。
まず立ち寄ったのは魔術師ギルドだった。
魔術師ギルドは、冒険者ギルドの中でも、特に魔術師向けの依頼や店が入っていたりする。
依頼の他にも個別に主を求めるフリーの魔術師が雇い主を探す斡旋所の役割も持っている。