ミントグリーン~糖度0の初恋~





「うわっ!これもメッチャうまいです」


興奮気味に言って、気持ちいい食べっぷりをみせるお客さん……改め柿本純平(カキモトジュンペイ)さん。


料理を作りながらの世間話でさりげなく名前を聞いたら極上の笑顔でフルネームまで教えてくれた。


名前なんて、何度も足を運んでくれたいわゆる常連さんにしか聞かないのがこの店を始めたときからの自分ルールだったのに。


何故だろう?聞いてしまった。


会ったばかりなのに彼の持つおおらかさと開放的な雰囲気に魅せられているような気がする。



「やっぱり決めつけはいけないんだなぁ」


あっという間に殆どを食べきってしまった柿本さんが呟くように言って、俺に笑顔を向ける。


俺が黙って首を傾げてみせると最後の一口を飲み込んだ柿本さんが紙ナプキンでお行儀よく口元を拭ってから話し始めた。



「本当に美味しい物を食べたければ、その専門店に行くもんだと思ってたんですよ」


「そりゃそうでしょうね」


「ところがです。
この間、会社の先輩に連れていってもらった店のタイカレーがめちゃくちゃうまかったんですよ。

インテリアショップの片隅にあるカフェスペースで食べたんですけどね。

そこのマスターが独学で作った味だって言うんですけど、俺が今まで食べてきたどのタイカレーよりうまかったくらいです。

あ、俺タイ料理が大好物なんでよく店をリサーチして食いにいくんですけどね。

全然関係なさそうな業態の店の片隅でナンバーワンに出会っちゃうなんて何か騙された気分ですよ?」


「確かに」


相槌を打ちながら、柿本さんは大好物がタイ料理がなんだと記憶の片隅にメモっておく。

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