ミントグリーン~糖度0の初恋~




「今年の夏にナポリタンを研究し尽くしたんです。
あ、僕も何か飲ませてもらっていいですか?」


一言断って、自分用に酒を作りながら話し出した俺に柿本さんが相槌を返してくれる。


「何でまたナポリタンだったんですか?
ナポリタンって喫茶店か家庭でしか食えないと思ってました」


「そこはまあ…色々あって」


「へえ。その色々に興味が向きますけど、今は突っ込まないでおきます。
それで研究の成果は?」


「いや、大変でした。
1度拘り出すととことんやりきらないと気が済まないもんで。
一日中ケチャップの匂いが離れないんですよ。
味見繰り返して結構太りましたし」


柿本さんが楽しそうに笑う。


「で、3週間近くかけて完成したんです。
究極のナポリタン。
そりゃ、一番の自信作だ!くらい言わせてもらわないと」


「へえ。だったら俺もナポリタン注文すれば良かったなあ。
カルボナーラも抜群でしたけど。

そのナポリタンは誰か食べてるんですよね?」


俺は出来上がったグラスを柿本さんに軽くあげて見せてから口にする。
ライムを思い切り効かせたモスコミュール。
爽やかな苦味が鼻を抜ける。



「…………はい。
まだ1人だけですけど、食べさせました」


「その方は、なんて?」


「すごいね! 宇宙一美味しいよ


…………って言ってくれました」



俺の言葉に柿本さんは微笑んでグラスを軽く上げてみせると残っていた酒を飲み干した。




















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